遠い記憶3
「しつこい男だ」
久しぶりに三人が揃って食事をしている時だった。
突然のエラーラ通信に席を立ったシゼルだったが、相手は付き合いを迫る男で、うんざりと一方的に通信を切る。
「くだらない内容だった。すまない」
三人での談笑に水を差されたことが口惜しく、シゼルはそう2人に詫びる。
「ほっほっほ。相変わらずじゃのう」
「こういうことは、多い?」
笑うガレノスに、バリルは尋ねる。
「あたしに似ず美しいからの。声をかけられることは多かろうて」
本人は興味ないけどねぇ、とガレノスは笑う。
シゼルも、「困っているんだ」とバリルに訴えた。
「シゼルに相手が居ないのが不思議だったけれど、シゼルが必要としていないんじゃあ仕方ないね」
笑うバリルに、ふとシゼルは彼はどうなのだろうと思う。
インフェリアのことを話す時、遠い瞳をする彼だ。
大事な人を置いてきたと言っていた。その大事な人とは?
「バリルは?居たのか?」
シゼルの言葉に、バリルの顔から一瞬笑みが消える。
しかしまたすぐに微笑みを浮かべ、「想っていた人なら」と言葉少なく答えた。
その表情に、食事をしていた手が止まる。
つきんと、胸の奥が痛んだ。
「そう・・・」
いつも好む、彼の遠い瞳だ。
しかしこのときは何故か、好ましく思えなかった。
いつもならバリルの側で話を聞いているシゼルが、その日は珍しく一番に部屋に戻った。
その様子を黙ってみていたガレノスは、バリルと2人になった食卓でバリルに尋ねる。
「インフェリアに、帰りたいかい?」
微笑んで、バリルが首を横に振る。
「辛い思い出を残して来ました。両親は気になるけれど、戻る気はありません」
それに学者としてこちらの世界の方が興味深いと告げるバリルに、ガレノスは「そうか」とだけ答えた。
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