遠い記憶5



「外しても、いいのか?」

いつのまにかチョーカーを外していたバリルに、寝転がったままシゼルは問うた。

彼の世界の風習だというのに。

けれど隣りの彼は笑って、「起きてたの?」と尋ね返す。

「必要ないから、いいんだ」

そう言って、シゼルの瞼に口付ける。

「おはよう、シゼル」

・・・2人で目覚める、朝。




「ほら、バリル。昼食持ってきた」

シゼルが勝ち誇ったような顔でランチボックスを片手に研究所に現れる。

ここ数日の日課になっていた。

「・・・私にはないのはどういうことかのう」

ガレノスの呟きに、バリルは苦笑する。シゼルは気付いていないのかそのまま去っていった。

チョーカーを身に付けずに過ごすようになったバリルに、ガレノスは何もと問うてはこなかった。

ただ、彼が時々目を細めて娘と自分のやりとりを見ている事を、バリルは知っている。

その目は2人を慈しむ様な、見守るような優しい目だった。

「そういえば、それは何の設計図かの?」

先日からバリルが空き時間を利用して書いているメモを覗き込み、ガレノスが尋ねる。

それは、乗り物だった。

「ほう、世界を超える乗り物・・・?」

「インフェリアに行ける乗り物が出来ないかなと思って」

答えるバリルは、晴れ晴れとした顔をしていた。

向こうの世界の話をするたび、遠い目をしていた彼はどこにもいない。

「帰る気に?」

「まさか。見せてあげたいな、と思って」

誰に、とは言わない。けれど、ガレノスは知っていた。

だから、期待しとるぞ、とだけ言葉を返す。

この乗り物が形になる頃には、きっと家族が増えていることだろう。

遠い未来を夢見て、ガレノスはこっそり微笑んだ。







「見せてあげたい、と言ってたんじゃ・・・」

遠くインフェリアへと消えていったメルディを見送りながら、ガレノスは呟いた。

愛しい者達。こんな未来は予想していなかっただろう。

こんな形で、彼の世界へ行くことになるなんて。

なんて、皮肉な。

「どうか、無事で・・・」






いつかシゼルに見せてあげたいな、僕の世界を。

そうだな。バリルのいた世界なら、見たい。

きっと見せてあげるよ、遠い・・・いや、近い将来、絶対に。

その頃には、2人じゃなくて、3人かもしれないな。

そうかもね。一緒に、行こう。

約束だ・・・。




それは遠い日の記憶。





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