ねえ、私を見て。




 
Look me




「キール、まだ寝ないか?」

既にもう風呂にも入り、寝る準備を済ませたメルディは、そう書斎へ声をかける。
書斎には、、分厚い本を片手になにやら難しい顔をしているキール。
何だか部屋に入りづらくて、入り口からもう一度「キール」と呼びかけた。

「ああ。メルディ、ごめん」

気付かなかった、と申し訳なさそうな顔をしてキールが本を置いてやってくる。
メルディの目の前に立ち、もう一度「ごめん」と謝った。

「もう少し調べたい事があって。先に寝ていてくれ」
「・・・はいな。分かったよ」

多少の淋しさを感じながらメルディが頷くと、キールは優しい顔をして、
そっとメルディの髪を撫でた。

「お休み」

そう言って、くるりと書斎の方に戻ってしまう。
残されたメルディは、キールに撫でられた髪に触れながら、キールに向かって、
「お休みなさい」と小声で返すしかなかった。




最近、キールは優しい。
先程のように優しい笑みを浮かべながら、そっと髪に触れたり、頭を撫でたりすることも多い。
「好きだ」と。
お互いがそう告げあったあの時から、キールはものすごく優しくなった。
優しい目でメルディを見るようになって。
優しくメルディに触れるようになって。
それこそ、まるでガラス細工を扱うみたいに優しく触れて。

・・・前みたいに、力いっぱい抱きしめてくれなくなった。

お互い想いが通じ合って、幸せなはずなのに。
なぜだか、キールに優しくされるたびメルディは悲しくなる。
前はこんなんじゃなかった。
メルディのために、本気で怒って大声で怒鳴って、力いっぱい接してくれたのに。
想いが通じ合ってからは、一度も、抱きしめてさえくれない。




望んだのはこんなカタチじゃない。




「メルディ?」

真っ暗な寝室の中、ベッドにも入らずうずくまっているメルディに気付いたのか、
キールが訝しげな声でメルディの名を呼ぶ。

「ベッドにも入らないで。どうかしたのか?」

近づいてくる優しい声に、メルディは更に泣きたくなった。
前のキールだったら、「馬鹿!」って怒鳴ってくれたのに。
何でそんな、悲しくなるほど優しいの?

「・・・?メルディ・・・」
「・・・きーるぅ・・・」

覗き込んでくるキールのその腕に、メルディは縋りついた。
抱きしめて欲しかったのに、キールはメルディの手をやんわりとどけさせる。

「キール、何で・・・?」
「メルディ・・・?」
「前はキール、そんなじゃ無かったよ。何で?何で優しくするの?」

ぽろぽろと、涙が零れる。

「今のキールは優しいけど、嫌い・・・」
「メ、ルディ・・・?」
「だって、優しい代わりに、何もしてくれない。馬鹿って、言ってくれない」
「・・・」
「ぎゅって、メルディがこと、抱きしめてもくれない・・・」

わがままを言っているのは分かっている。
優しいのが嫌だなんて、贅沢を言っている事ぐらい分かる。
それでも。
キールの気持ちが自分から離れていっているようで。
自分の事を見てくれていないようで。
嫌われているようで。

「怖いよ・・・」

メルディの言葉を、キールは黙って聞いていた。
何もしてくれない。
先日の愛の言葉さえ否定されそうで怖かった。

「・・・だって、駄目なんだ」

ぽつりと、キールが呟いた。
否定的な言葉に、ビクリとメルディは震える。
けれど、それはメルディへの言葉ではなかった。

「少しでも、触れたら止まらなくなりそうで。歯止めが、利かなくなりそうで」
「きー・・・る・・・?」
「前は良かったんだ。知らなかったから。でも、今はもうメルディの気持ちを知ってしまって。
 ・・・メルディは、まだ、こんな・・・なのに」

搾り出すような声。
熱っぽいその声に、メルディはキールの本当の気持ちに気付いた。

「子どもじゃないよ。メルディ、子どもじゃない」

キールの腕に、もう一度縋る。

「キール、よく見て。メルディ、キールと一緒だよ」

熱を帯びているのは、キールだけじゃない。
自分だって、こんなにも触れたがってる。
抱きしめて欲しいって、こんなにも感じてる。

愛し合う事の意味を知らないような、そんな子どもじゃない。

「見て。キール」




どんなにお互いが求め合っているか確かめるために。




・・・私を、見て。

END


こういう艶っぽい話の方が好きです。
個人的にはベッドシーンより直前・直後の方が魅力的だと思う。
題を見てこういう話しか思いつかない私はもう末期でしょう。


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