最近、何だか彼が余所余所しい。

 

   一番近くにいるのに、一番遠い人

 

「じゃあ、僕は出かけてくるからな。ちゃんと鍵締めとけよ」

今日も、彼はそう言って研究所へと出かけていく。
まるで子どもに対するようなキールの言い方に、思わずメルディはふくれた。

「わかってるよう。メルディ、子どもじゃないな!」
「分かってなさそうだから言ってるんだ。じゃあ、行ってくる」

メルディの抗議を何処吹く風と交わして、今度こそ扉を閉める。
彼の背中を見送ってしまうと、あとはポツリとメルディがお留守番だ。

「子どもじゃない・・・」

もう閉まってしまった扉にもう一度そう訴える。
最近、キールは毎日のように研究所に出かけるようになった。
このセレスティアに来てからしばらくは、ずっと一緒にいたのに。
元々研究が好きな彼の事だから、仕方ないのかも知れないけれど。
それでも少し前までは「家でも研究くらい出来る」と言ってここにいてくれたのに。
今では夜遅くにならないと家に帰ってこない。
・・・まるで、最近、自分の事を避けているみたいだ。

「メルディがこと、嫌いになっちゃったのか・・・?」

思わずつぶやくが、そんなはずはないとも思う。
だって、彼は毎晩、自分が完全に眠ってしまうまで側にいてくれる。
夜中に悪夢を見てうなされた時も、抱きしめて大丈夫だと言ってくれる。
一番、近くにいてくれているはずなのに。
それでも彼は翌朝すぐに研究所へと行ってしまうのだ。

彼の気持ちが、見えない。

一番近くにいるのに、一番、遠くにいる、人。

そうして彼女は一日中、彼の事を考えながら過ごすのだ。

「キール・・・」

 

 

 

「もう、眠ってしまったかな・・・」

そっと玄関の鍵を開けながら、キールはそうつぶやいた。
もう寝てしまっているといいとも思うし、起きているといいとも思う。
メルディは、自分ではそうとは言わないが、一人ではちゃんと眠れないようなのだ。
悪夢にうなされて起きる事も度々ある。
彼女の身に起こった事を思えば、当然とも言えた。

「ん・・・。きーるぅ・・・?」
「そんなとこで寝るな。部屋に行くぞ」

どうやら待っていたらしい寝ぼけ眼のメルディをソファのから立ち上がらせて、彼女の寝室へとあがる。
始めの頃はこの部屋に入ることさえ躊躇した。
インフェリア育ちの自分にとっては、未婚の女性の寝室に一緒に入るなんて信じられない事だったから。

「ほら。ちゃんと布団に入れ」

うとうととしながら歩くメルディをベッドまで誘導し、毛布を持ち上げて寝かせる。
やっとベッドに寝転んだメルディに、そっと毛布をかけて。

「キール。おかえりなさい」
「ああ・・・ただいま」

そう言ってやると、メルディがホッとしたようにふわりと笑った。
彼女がどんなに寂しい思いで自分を待っていたのかが分かって、胸が痛い。
それでも、お休みと髪の毛を撫でると、彼女はそっとまぶたを閉じる。
しばらくしてすうすうと彼女の寝息が聞こえると、ホッとして近くのイスに腰掛けた。

「・・・ごめん・・・」

彼女が本当は、自分に出かけて欲しくないと思っていることを知っている。
キールだって、本当は出かけたくない・・・心配だから、ずっと側にいてあげたいのだ。
・・・だけど。気づいてしまった。
彼女の細い肩を、必要以上に抱きしめたくなっている自分。
悪夢に怯えるその横顔に、保護欲以上の邪な思いを抱いてしまっている自分。

これ以上側にいると壊してしまいそうで怖かった。

彼女の信頼を裏切りたくないから。
出来るだけ一緒にいないように。
こんな気持ちを気付かれないように。
これ以上彼女を苦しめたくないから。

「一番近くにいるはずなのに、遠いな・・・」

そうして彼は一晩中、彼女の事を想いながら過ごすのだ。

「メルディ・・・」

 

 

 

お互いに、一番近くで確かに想いあっているのに。

こんなにも遠い、アノヒト。

 

END

 

ED後二ヶ月目くらい。
双方向で片思い中。

 

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