気になる子がいる。

別にこれといってテニスが強いわけでもないのに、なぜかいつも気にかかる。
すぐに泣き出してしまいそうな子で、弱弱しくて見ていられない。
いっそ泣かせたいとさえ、思うほど。



恋というよりは凶暴なまでの。



「越前、お前恋愛してる?」
「・・・はあ?」

部活の休憩時間中。
突然の桃城の一言に、リョーマは何言ってるんだこの人的な乾いた声で聞き返した。

「だーかーらー。恋愛だって!」
桃城は、再度大きい声でそう言い放つ。
何でいきなりそんなことを聞かれなければならないのか。
興味などなく、そのまま先輩である桃城を無視して立ち去ろうとしたリョーマの首を、
桃城はナイスタイミングでがっしり捕まえ、捕獲した。

「何でそんなどうでもいいこと聞くんスか先輩」
「何でってお前、1年ではすごい人気あるって言うじゃん。ファンクラブもあるし。
 だから、その辺どーなのかなーと思って」

めちゃくちゃ興味本位だ。

しかもあれよあれよという間に菊丸や不二も集まってきて、「気になるよねー」などと
桃城に加勢しだした。
助ける気はないどころが、敵そのものである。

「マッタク興味ナイデス。好キナ人ハイナイデス」
「うわーめちゃくちゃやる気なく棒読みで答えるのかよ。真面目に考えろー」
「そうだそうだ!桃の言うとおりだぞう。隠し事は許さないにゃー」
多勢に無勢とはこのことである。
普通に休憩したかったのに、とリョーマはがっかりした。
「マジで興味ないスよ。だって今はテニスオンリーだし。恋愛とかしたって、メリットないでしょ?」
仕方なく、真面目にそう本音で答えると、お前淋しいなあ、と先輩達に返された。
「恋愛は大事だぞ〜。青春といえば部活して恋愛してが基本じゃん、ねえ?」
「そうそう恋愛しないなんて人生半分損してるよおチビ。したほーがいいよ」

「はあ。ってか、大事大事って恋愛したら具体的にどう変わるわけ」

あまりにもな桃城と菊丸の熱弁に、リョーマは多少引きながらそう尋ねる。
先輩に対しての質問にしてはかなり失礼な口の利き方のような気がするが、
いつものことなので誰一人気にしていない。

「そうだなあ、やっぱり好きな子の顔見れただけで嬉しいし、話せたら一日幸せだよな〜」
「好きな子にはカッコいいとか楽しいとか思われたいって思うにゃ〜。笑わせてあげたりとか」
桃城と菊丸がお互いに言い合い、そうそう、と頷き合う。
リョーマからすれば、たったそれだけのことの何が大事なのかと思ってしまう。
そんなことよりは、テニスやテレビゲームの方がずっとリョーマを熱くしてくれると思うからだ。
女はめんどくさい。
何だか無駄なことを聞いてしまったと思ってしまった。

「まあ、先輩達の熱弁には悪いですけどやっぱ興味ないんで。水飲みに行って来るっス」

「そう?越前って竜崎先生のお孫さんと仲良いんじゃない?あの子も何もないの?」
それまで沈黙を守っていた不二が、そう尋ねた。
ピンポイントに、何を言い出すんだろう。
「・・・それは、そんなんじゃないス」
「ふうん?越前にしてはあの子にはよく話すんだなと思ったけど違うの?気になってるんじゃなくて?」
見透かすような、目をしている。
だけど、そんなんじゃない。
彼女は、自分にとってそんな優しい存在じゃない。

「・・・違うっス」



水飲み場までの道のり。
リョーマは先ほどの会話を思い出しながら歩く。

―――違うの?気になってるんじゃなくて?」

不二の台詞が、リフレインする。
そうだ、確かに彼女のことは気にはなっている。
気になってはいる、けれど。

―――話せたら一日幸せだよな〜
―――笑わせてあげたりとか。

そんな、可愛い気持ちではない。
自分が彼女に向けている気持ちは、そんな甘いものではない。
彼らの話す恋愛の感情はプラスの感情だったが、自分が彼女に向ける感情はむしろマイナスだ。
だから、これは恋愛ではない。

「あ・・・リョーマ、くん・・・」

小声で呼びかける声に、顔を上げる。
長い三つ編みの少女。
何て悪いタイミングで。

「何。何か用」
リョーマが答えると、彼女は「用じゃないけど・・・」と足元を見ながらおどおどしている。
自信のなさそうな、態度。
どうして、自分を見るたびそんな風に怯えた態度を取るのか。
イライラする。
「俺急いでるから。用ないならもう行くよ」
「あっ・・・!あのね、今度、試合、でしょう・・・?」
だから、頑張ってね。
それだけ言い切ると、彼女はホッとしたような顔をした。
その顔に、リョーマの体にビリビリと電流が走る。

何でそんなことを言うためだけにビビってるんだ。
ビビるくせに、何でこんな震えてまでして言いに来るんだ。

いじめてやりたい。

もっと怖がらせてやりたい。
その顔を泣かせてやりたい。
小さなその体を引き裂いて。

めちゃくちゃにしてしまいたい。

「・・・リョーマくん・・・?」
黙ってしまったリョーマを不審に思ったのか、こくりと首をかしげてリョーマの方を見つめてくる。
その純真そうな瞳に、ぞくぞくした。

「アンタ、馬鹿じゃないの?」
「・・・っ!!?」

細い手首を捕まえ、細い体を壁に縫い付ける。
不安で揺れた瞳に、胸の中で舌なめずりした。
まるで獲物を捕えたハンターの気分。

ほらね、そんな甘い存在じゃないだろう?



これは恋愛なんかじゃない。
もっと、ずっと、凶暴な。


END


リョ桜というよりはリョ→桜。リョーマ視点恋愛感?
私は白リョーマも黒リョーマも大好きです。
それはね、やはり恋愛と呼ぶのだと思いますよリョーマさん。


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