途中までは楽しかったんだけど。

気になったらもう、止まらなくなっちゃって。





   
お姫様の憂鬱





「なぁ・・・何怒ってるんだ?」



助手席で黙ったままの私に、真咲先輩はそう困ったような声で話しかける。

さっきまでだって、私を笑わせようと楽しい話をたくさんしてくれてて。

先輩に心配かけてるのは分かってるけど。



「多分俺が悪いと思うんだけど・・・悪い、マジで思いつかない」



違う。悪いのは本当は先輩じゃない。

そう思ったから、「・・・別に、真咲先輩は悪くないです」とだけ彼に告げた。

でもきっとまだ私は不機嫌な顔をしていたんだろう。

一層先輩は困った顔をする。



「そんな事ないだろ?言いたい事あるなら、言えよ。怒らないから」



勿論、優しい先輩の事。怒らないだろうって分かってる。

でも、きっとそんなくだらないことって思われちゃうから、言いたくないんだ。

けれどこれ以上黙っているのも申し訳なくて、しぶしぶ不機嫌の理由を彼に告げた。



「・・・有沢先輩の話するから」



私の言葉に、真咲先輩は「は?」って顔。

思ってもみなかったって感じで驚いてる。

そんなことだろうと思った。そんな顔するなんてずるいよ。



「だって、真咲先輩が有沢先輩の話をするんだもん」

そう言い放って、そのままぷうと頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。

思えば高校生の頃から、つまり付き合う前から気になっていたこと。

バイトの話や植物の話になると、真咲先輩の口からは有沢先輩の名前が必ず出るのだ。

そりゃ、私が入る前から一緒にバイトしてたんだし、付き合いも長いだろうし、仕方ないんだろうけど。

でも有沢先輩はすごく綺麗で頭もよくって大人で・・・。

私は真咲先輩より3つも年下で、すごく子どもっぽいんじゃないかって。

そう考えたら、何だか悲しくなったんだ。



けれど、そんな私とは対照的に、真咲先輩は何だかにこにこしていて。

「やきもち?」なんて聞いてきた。

その妙に嬉しそうな、機嫌のいい声に腹が立って。

「もう、怒ってるんですよ!」と彼の方を向く。



「もうもう!何で真咲先輩笑ってるんですか!」



私がこんなに悩んでるのに、笑うなんてひどい。

3つも離れてて、本当に私でいいのかな、なんて不安になったのに。

じっと睨み付けると、真咲先輩は「あー、泣くな泣くな!」と片手で私の頭を撫でた。

ほらまた子ども扱い!



「あのな・・・あんまり可愛すぎるから構いたいんだけど、運転中だから。ちょっと待っとけよ?」

言いながら、そういえば私の家に向かってたはずの車は、いつの間にか違う目的地へと進んでる。

可愛いって・・・。ううう。嬉しいけれど、からかわれてるような気もする。

「分かってるとは思うけど、有沢はただのバイト仲間だからな?」

「・・・分かってます、けど・・・」

「確かに、有沢の話、してたかも。でもそれは、有沢がお前との共通項だから、話してただけだ。

 バイトの話とか、喜ぶかと思ってたし」

傷つけてたならごめんな、と先輩が言う。



「いえ・・・。ううん。ちゃんと、分かってるんです。本当は」

折角の楽しいデートだったのに、こんな風に先輩を困らせちゃった。

今更になってそんなことに気付き、しゅんとうなだれる。



「でも、俺は嬉しかったけどな」



「え?」

先輩の言葉に、俯いてた顔をぱっとあげる。

そんな私に、先輩は「着いたぞ」と告げた。



そこは、あの、灯台のある浜辺だった。

私と先輩が、バイトの先輩後輩じゃなくて・・・恋人同士になった場所。



「ほら」

先に車から降りていた先輩が、助手席側のドアを開ける。

まだ座ったままの私に手を差し出して、促すように微笑んだ。

「お手をどうぞ、お姫様?」



先輩の台詞に赤くなりながらも、手をとって車から降りる。

夕焼けに染まった海がとても綺麗で、思わず見とれてしまった。



「わかってても、妬いちゃうんだよな、やきもちって」

「え?」

さっきの話の続きなのだろう、そう、先輩が語りだす。

「知らない男の名前が出るたびにさ、誰だよそいつ!とか、どんな相手だよ、とか。気になって仕方なくなる。

 ただでさえ3つも離れてるし、同級生の話を嬉しそうにしてるのを見ると、生まれる年を間違えたか、なんて思ったりしてな」

「・・・先輩・・・」

「器の小さい男だとか思われると嫌だから、これでも結構耐えてるんだぜ?真咲先輩としては」

だから、と先輩は微笑んだ。

「さっきは嬉しかった。お前も同じ風に思ってくれたんだと思って」



まっすぐ見つめてくる先輩の顔に、どきっとする。

繋いだままの手をぐっと引っ張られて、先輩との距離が近付いた。

息がかかるほどの距離・・・。

そっと、目を閉じる。

この後何があるか、もう知ってるから。






「・・・機嫌、直った?」

いつもより長いキスの後、そっと耳元に告げられた言葉に、思わず先輩を叩いたけれど。

本当は先輩もやきもちやいてたって聞いて嬉しかったってことだけは。

あとでそっと、教えてあげよう。








なんかsssの真咲がかっこ悪いので書いてみた。
真咲さんの口調に違和感があるなんて言ってはいけません。
ラブラブの真咲先輩と主人公が書きたかったんです。


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