「じゃあ、また。明日な」

そう言って、くしゃくしゃと頭を撫でる先輩。

まだ私は、貴方の後輩なの?




    
私を見て




「お、もうこんな時間か。悪いな、気付かなかった」

時計を見た真咲先輩が、隣でそう告げる。

「送る」と立ち上がろうとする先輩の温もりを離したくなくて、私はぎゅっとその腕を掴んだ。

「・・・?」

「帰りたくない・・・」

私よりずっと背の高い先輩を見上げるように上目遣いで呟くと、先輩は困ったように笑った。

「・・・あー、もう!そんな事いうと、本当に帰したくなっちまうだろ?上目遣い禁止!」

そう言って、大きなその手で髪の毛をくしゃくしゃとする。

まるで、妹にするみたいに。



最初の頃は気にならなかった先輩の癖。

そんな風に髪の毛を掻き混ぜてみたり、危ないからと手を繋いでみたり、慈しむみたいな目で見てきたり。

最初は優しくて大好きだったそれが、不安で仕方がなくなった。

何時私は、この人の後輩や妹でなくなるんだろうって。

何時、女として見てもらえるんだろうって。



「車のキー、とってくるから。準備して待ってな」

そう言って部屋の奥へと入っていく先輩。

しばらくそのままその様子を見ていて。

私は立ち上がった。

「・・・今日は、友達のところに泊まるって言ってあるんです」

え、と先輩が驚いた顔で振り向く。

お願い、困ったように笑わないで。

「駄目、ですか・・・?」

呟いた私に、しばらく先輩は考えるような顔をして、「駄目だ」と言った。

「どうして・・・?」

「親御さんに嘘をつくのはよくないだろ。送ってやるから、泊まり駄目になったって連絡しろよ」

先輩が横を通りすぎ、背中を向ける。



そのまま玄関へ向かおうとする先輩を、走って追いかけた。

まるで私を拒絶しているような、その背中に飛びついて。

「何で・・・」

勢いよく抱きついた私を、直前で振り返った先輩は庇うようにしてその場に倒れこんだ。

仰向けに床に倒れた先輩に馬乗りになって、私は俯く。

「何で、ですか・・・」

声が震えた。

慰めようとしたのか、それとも私の体をどかそうとしたのか、先輩の手が私の方へ差し出され、途中で止まる。

空中で握られたその手が、涙で滲んだ。

どうして、と先輩の目が問う。

「だってこうでもしないと・・・、先輩、私の事妹や後輩以上として見てくれないじゃない」



恋人のはずなのに、いつも不安だった。

優しい先輩の仕草が、言葉が、恋人に対するそれではないような気がして。

大学にはもっと綺麗な人も、もっと大人な人もたくさんいて、私は3つも年下で。

いつも、見守るような目で、私を見て。

だから。



「どうしたら、私の事見てくれるの?」



私は、こんなにも先輩が好きで。

体中が、先輩が好きだって言っているのに。

先輩みたいな余裕なんか、どこにもないのに。

好きで、好きで、どうしようもなく好きで。

どうしたらいいかわからない。

どうしたら、貴方が、私を。

貴方にとっての、1人の女の子として見てくれるのか。

分からないの。



「私は、どうすればいいの・・・?」



涙が、溢れた。

宙で止められていた先輩の手が、そっと私の背に添えられる。

嗚咽をかみ殺して静かに泣く私を、先輩は倒れたまま、抱き寄せた。



「・・・ずっと、悩んでたんだな」

ぽつりと呟かれた先輩の言葉に、私は黙ったまま頷く。

「そっか。ごめんな。・・・ごめん」

ぎゅう、と、腕の力が強まる。

何だか胸が苦しくて、私は先輩にしがみついた。

「怒らないで、聞いてくれるか?」

先輩の言葉に、こくり、と頷く。

「こうしてる間でも、俺は、お前のことめちゃくちゃにしたくて、仕方がないんだ」

「・・・先輩?」

「こんなに悲しい顔をして泣いてるのに、その顔が可愛いって、もっと、お前の全部を暴いて泣かせたいって思ってる」

その言葉にびっくりして、思わず顔を上げると、そこには微笑んだ先輩がいた。

大きいその手が、私の頬を伝う涙を拭う。

「だけど、それ以上に大切にしたいから、我慢してるんだよ」

こう見えても結構必死なんだぜ?

そう言ってこつんと額と額をあわせた。

すぐ近くに、先輩の顔がある。



「無理なんか、すんな」

「せんぱ・・・」

「俺は、ちゃんと、お前だけを見てるから」



もう一度、抱き寄せられる。

先輩、という声は、重ねられた唇に掻き消された。





ちろるさまの真咲←主漫画に触発されて。
ちろるさまに捧げます。かなり脚色してしまったので・・・お気に召しますでしょうか?はらはら。


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