「この前初めて知ったんだけど、小惑星って発見者が名前を付けることが出来るんだね」
月を見てもらおうと角度を調整していた僕を眺めながら、
彼女は突然そう言った。
惑星を一つ
「ああ、どこで知ったんだい?」
「この前テレビでやってたの。すごいね、名前を付けることが出来るなんて!」
目を輝かせる彼女に、僕も嬉しくなる。
僕も初めてそのことを知った頃は、「僕も発見して名前を付けるぞ!」と意気込んだものだった。
何だか僕の気持ちに共感してもらったような、彼女と繋がり合った様な、そんな気持ちになり、気分が高揚した。
「彗星にも名前を付けることが出来るんだけど、発見者の名前に限られてるんだ。
それに対して、小惑星の発見者には、名前を申請する権利が与えられる。
とは言っても何人も発見者がいることも多いから、その場合は小惑星の軌道を確定することに最も貢献した人に与えられるんだよ。
その場合、自分の名前だけじゃなくてもいいんだ」
しまった。興奮しすぎて説明が長かったかもしれない。
しかしこちらを見る彼女の目は輝いたままで。
僕は何だかくすぐったくなって、こほん、と咳払いをする。
「・・・例えば、神話の登場人物の名前や俳優の名前、映画監督、スポーツ選手、会社の名前なんてのもある。
君もよく知る、かぐや姫や桃太郎なんて名前もあるんだよ」
「そうなんだ・・・。じゃあ、家族の名前をつけたりもできるのかな?」
「発見者の中には、家族の名前を付けた人もいただろうね。子どもや、親や・・・。
そ、その、恋人の名前・・・とか・・・」
最後の一言はちらりと彼女の方を見ながら。
思ったとおり彼女は「うわあ、ロマンティックだね!」と大きな目を輝かせる。
「格君ももちろん名付け親、狙ってるんでしょう?どういう名前を付けようとか、決めてるの?」
彼女の台詞に、「えっ・・・!?」としばし固まる。
さっきからの話の流れでのそれだから、ばれたのかと思ったけれど。
しかし、彼女の顔は純粋な好奇心に満ちていて、深い意味はないようだ。
「決めてる・・・けれど、発見できてから教えるよ」
「ええー、気になるなあ」
「いっ・・・いいじゃないか、そのことはもう!さあ、月を見る準備が出来たよ!」
赤く染まった顔に、気付かれなかっただろうか。
ぱっと背を向けたから、彼女がどんな顔で僕を見てるのか、もう分からない。
「今夜は満月だ、あかり君。天気もいいし、よく見えると思うよ」
「うん。ありがとう。楽しみだな〜」
・・・小惑星を発見したら、「あかり」って付けようと思うんだ。
うきうきと天体望遠鏡に向かう彼女の背に、僕はこっそりと呼びかける。
勝手に君の名前を付けたら、怒るかな。
遠い未来、僕たちが死んでも、君の名前だけは記録として残る。
遠い子孫が君の名に触れ、君の名を呼ぶ。
それって、すごいことだと思わないか?
それが僕に出来る、君への最大のプレゼントだなんて、僕の独りよがりかもしれないけれど。
「格君、一緒に満月を見よう?」
いつかきっと。
君に、惑星を一つ、プレゼントするよ。
彼はきっとロマンチストですよ。だって天体オタクなんだもん!
望遠鏡イベとクリスマスイベを見る限り、本当に言いかねない。