破壊的チョコレート



「瑛のバカ!鬼!鬼畜大王!」



今年も手作りする、と言った私に、瑛は無常にも「ああ、あの破壊的な味のするチョコ」と言った。

確かに昨年の手作りチョコは成功・・・とは言えない出来だったけど(だって遊くんが顔を背けてた)、

それでも明け方までかかって作った本命チョコだったので。

だからそんな風に言われて、かなり傷ついたのは本当。

だからとりあえず手に持った荷物で瑛を殴ってそのまま逃走し、その足で本屋に駆け込んだ。

手にしたのは「誰でもできる簡単チョコレートのお菓子」の本。

その日から、瑛を思わず唸らせるためのチョコ作りの猛特訓が始まった。



「お姉ちゃん・・・もう諦めたら・・・?」

さすがに中学生になり、徹夜のチョコレート作りには付き合えなくなった

遊くんが、朝一番にそう言った。

ああ・・・もう朝なのね。

朦朧とした頭で私はそう思い、けれど首を横にふる。

「今日はたいして重要な講義もないし。まだ時間に余裕があるから、頑張ってみるよ」

高校生の頃なら学校をサボってチョコレート作りなんてできなかったけれど、今は違う。

それにチョコレートも持たずに、瑛も通う大学になんて行けそうにない。

心配そうな遊くんに「行ってらっしゃい」と手を振り、私は再びチョコレート作りに戻った。



時間は刻々と過ぎていく。

まだ満足のいくようなチョコレートはできない。

何度も携帯が鳴り、メールも電話も何通も着ていたが、すべて気がつかない振りをした。



気がつけば昼も過ぎ、夕方になっている。

目の前には失敗作のチョコレートの山。

何だかぐったりして、私は溜息をついた。



「・・・何やってるんだろう・・・」

考えてみれば。

ホワイトデーのお返しに手作りケーキを作るような料理上手の瑛を唸らせるようなチョコレートなんか、

そうそうできるもんじゃない。

ただでさえ、瑛は舌が肥えてるし、厳しいし。

どうしてこんなに必死になっちゃったんだろう。



「ばかみたい・・・」



ふと置きざりにしていた携帯を見ると、着信は全部瑛の名前。

メールも。

そうだ私、せっかくのバレンタインなのに、瑛にまだ会ってない。

悪口を言ったまま、あれからずっと。

会えない。



「なにしてるんだろう・・・」



呟いたその時、携帯がなった。

表示された瑛の名前に、震える手で電話に出る。



「このバカ!お前今まで何してたんだ!?」

電話の向こうでは開口一番、瑛がそう怒鳴った。

「瑛・・・」

「大学にこねーし。電話にも出ないし。今どこだよ!?」

「・・・家」

「家!?あーもうとにかくお前外出ろ!そっち行くから」

「駄目だよ・・・出れない」

「はあ!?」

「だってチョコレートできてないんだもん・・・会えないもん・・・」

瑛の声に、今まで我慢していた何かがあふれ出す。

ぽたぽたと、涙がこぼれた。



「・・・いいから外出ろ。出ないと今すぐ不法侵入するからな」



「・・・え?」

瑛の言葉に思わず玄関へと走った。

玄関のドアを開けると、そこには携帯を片手に怒ったような顔をして立っている瑛の姿。

「・・・瑛・・・」

「お前が来ないから、来た」

彼はそう言って、ずかずかと玄関に入る。



「・・・何か、物足りないんだよな」

「・・・え?」



「破壊的な味のするチョコじゃねーと、物足りないみたいだ、俺」



わざとぶっきらぼうに言う彼に、私は泣き笑いみたいな顔になって。

「ばか瑛」とだけ呟いて、そのまま彼の胸に飛び込んだ。





バレンタインを過ぎてから、こっそりブログに置いてた話。
瑛の最後の台詞が書きたかっただけです。
捻くれた二人が好き。


戻る


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理