ちょっと
それはある休日の夕方。
「ねえあかりさん」
「何ですか、若王子先生?」
夕食の準備をしている私に、後ろから先生が呼びかける。
さっきまでのたわいもない会話と変わらない声で。
「ちょっと結婚でもしてみましょうか」
まるで、「ちょっとそこまで買い物に」くらいの感覚で。
あまりにも普通に言うもんだから。
「いいですよ」
冗談だと思って、私もそう返したのだ。
「・・・まさか本当だとは・・・」
「嘘だ何て一言も言ってませんよ?」
のほほん、とした顔をした先生を恨めしげににらめつける。
あまりにも似合いすぎる白のタキシードがさらに腹立たしい。
あの一言から3ヶ月。
あれよあれよという間に今日を迎えてしまった。
冗談だと思っていたのに。
「・・・まあ、いいですけどね」
「やや?何だか物分りがいいですね?」
だって、おかげで言わずにすんだもの。
「ねえ、先生」
「何ですか?」
にっこり笑って。
私からも、仕返しです。
「ちょっと父親になってみませんか?」
本当にいいタイミング。
できちゃった婚にならなくて、よかったね、先生?
若王子先生ファンの友人とやりとりをしていて思いついた話。
こんな感じのあっさりした若王子先生がいいなー。