幸せそうな、その寝顔。
それが俺にとって一番の・・・。
最高のプレゼント
体育会系の部活をしている人間にとって、誕生日だからといって部活に影響はない。
今日もいつもどおりの練習メニューをこなし部屋に戻った志波を待っていたのは、すやすやと眠る少女の姿だった。
志波を野球の道に戻してくれた、彼女。
感謝してもしきれない、大切な存在だ。
「・・・ただいま」
小声で呼びかけるが、起きそうな気配はない。
早々と出したこたつに入ったまま気持ちよさそうに寝ているその姿に、志波は微笑み、そのすぐ側に腰を下ろした。
手元には編みあがったマフラー。
間に合ったのか、と志波は誰にともなく呟く。
誕生日プレゼントは何がいい、と聞かれ、何もいらないといった自分。
志波としては、彼女さえいれば何もいらないのだというつもりで答えたのだが、彼女は困ってしまったらしい。
結局、じきに寒くなるからとマフラーを編むことにしたようだった。
ようだった、というのは、実際に志波はその様子を目撃していないから。
志波から隠れて、こそこそと編んでいたのだ。
だから、こうして今日、初めて見たわけで。
嬉しい反面、こいつが彼女の睡眠時間と自分と過ごす時間を奪ったのかと思うと恨めしい気もする。
「だから、いらないといったのに」
志波は呟き、彼女の前髪をそっとかきあげた。
くすぐったそうに彼女は眉を寄せ、「うーん・・・」と声を漏らす。
「志波君・・・おめでと・・・」
そのままむにゃむにゃと呟くと、ふわっと幸せそうに微笑んだ。
起きたのかと驚いたが、そのまま彼女は夢の世界に戻ってしまって。
「寝言、か・・・?」
笑いがこみ上げ、我慢できずに「くくっ」と声を漏らして笑ってしまう。
それでも起きない、幸せそうな寝顔の彼女。
その愛しい頬に、志波は顔を寄せた。
「もう、帰ってきてたんだったら起こしてくれればいいのに!」
しばらくして目を覚ました彼女は、恨めしげな上目遣いでそう言った。
「悪い」とちっとも悪いと思ってない口ぶりで返しておく。
「あっ、お誕生日プレゼント、出来上がったよ。楽しみにしててね!」
にこにこと告げる彼女に、いや、と志波は告げる。
「もう貰った」
俺の名を呼ぶ、幸せそうなその寝顔。
それが最高のプレゼント。