背中が痛い
「お前、爪切れ」
朝デート先に現れた男は、開口一番そう言った。
「はあ?瑛何言ってるの?」
男の真意が分からず、思わずあかりはそう返す。
「痛いんだよ!お前のせいで」
「だから何が!」
文脈が読めない。
主語と述語と目的語を適切に利用して、と言いたくなる。
「だーかーらー!背中が痛いんだっつーの!」
「だからなんで瑛の背中が痛いのが私の爪のせいになるわけ?」
わけがわかんない、というと、この鈍感!と返ってくる。
「お前が昨日爪立てたから・・・!」
「昨日って、だから何が・・・」
そこまで怒鳴って、あ、とあかりは気付いた。
昨日爪立てた、って、それってもしかしなくても・・・。
「お前、背中に縋ってただろ」
「きゃあああああああ!」
ようやく瑛が何のことを言っているのか悟ったあかりは思わず叫んでしまった。
こんな公衆の面前でどうしてこの話!?
さっきまでのやりとりを誰かに聞かれていたかもしれないと思うだけで恐ろしい。
「馬鹿!こんなとこで言わないでよ!」
「だから言葉少なに言ってたのにお前が言わせるから!」
「もう、馬鹿ー!」
だんだんと白熱するその言い合いこそが、人の注目を集めているなんて。
幸せな2人はまだ気がついていない。
色っぽい話というよりこの2人には馬鹿ップルでいてほしい。
瑛がこんなイメージというより、こういう瑛がみたいという私の希望。