怖いもの
「大丈夫です!先輩に大分鍛えられましたから!」
そう言って自信ありげにDVDを手にした彼女は、さっきからずっと俺の後ろに隠れている。
「なあ、やっぱやめとくか?」
「だだだ大丈夫ですっ・・・!ちょっとさっきから流血シーンが多くて辛いだけでっ!」
「・・・ああ、そう」
背後には震える彼女、目の前は壮絶なスプラッタシーン。
いつもなら「おお!リアルな演出だなあ」なんて楽しんでる俺だけど、今日は全く集中できない。
俺としては、目の前のオカルト映画より背後の震える彼女の温もりの方がリアルなわけで。
これって忍耐力への挑戦?なんて考えている。
もう少し軽いのだったら彼女もそれなりに楽しめたのだろうが、いかんせん、今日の映画はグロテスクすぎた。
それでも彼女は俺の趣味に合わせようと、必死に耐えてくれちゃったりなんかして。
「そういうとこも可愛いんだけどなあ・・・」
ぼんやり呟く俺の声も、恐怖に必死に耐えている彼女には届かない。
ああ。あと何分、この誘惑に耐えればいいんだろう?
「ま・・・真咲先輩は、全然怖くないんですか・・・?」
彼女が唐突に、俺の背中に顔をうずめたまま尋ねる。
「まあ・・・こういうの、好きだし。よく見るから慣れてるし」
どっちかというと今背中にある感触になれてないんだけど。
「怖いもの、ないんですか・・・?」
「怖いもの?勿論ある」
え、何が?と思わず顔を上げて尋ねて来る彼女を背中越しに見やって。
「俺の怖いもの、お前」
とりあえず誘惑に負けて抱きしめちゃったらどうしようとか思ってるんだけど。
お前、どう思う?
本当は「怖くない」というお題のネタを考えてたんですけど、これってむしろ「怖い」ネタよね。あーあ。
真咲先輩は美味しいシチュエーションになっても耐えそう。紳士なんですきっと。