着てろ
心なしか、目の前の少女は震えているような気がする。
残暑が厳しいとはいえ、もう9月も半ば。
山の上にある動物園は少し肌寒かった。
なのに彼女はキャミソールに薄いカーディガンを引っ掛けただけの格好で。
それじゃあ、震えるのも無理はないだろう。
「・・・寒くないのか?」
尋ねるが、彼女は大丈夫と取り合わない。
辛抱強いところも彼女の魅力だと思うが、何も今我慢しなくても。
・・・俺の前では、無理などして欲しくないのに。
これ以上言っても無駄かと溜息をつき、上着を脱ぐ。
一応ジャケットを羽織ってきて正解だった。
家を出る前の自分の正しい判断に「よくやった」と言ってやりたい。
「ほら」
ばさりと、彼女の頭に上着をかけ、先を歩く。
早足になったのは、照れ隠しだ。
こんな気障なこと、彼女以外が相手だったら誰がやるものか。
「・・・ええ!志波くん、これ・・・?」
戸惑ったような彼女の声。
風邪引いちゃうよと、自分のことは棚に挙げ上着を返そうとする。
・・・さすがに上着がなかったら、タンクトップは寒いな。
秋だから当然か。
それでも、彼女が風邪を引くよりはずっといい。
「いいから、着てろ」
肩を冷やすより、お前が風邪を引くほうが、
俺の選手生命に大きな大ダメージだ。
そのうち同ネタを真咲でするかもしんない。というか、最初は真咲のネタだった筈なんですが。
気障な事を言うのは真咲で、さらりとしちゃうのは志波だと思う。