片方だけ
近頃めっきり寒くなった。
もう冬だなあ、と白い息を吐きながら真咲は思う。
「せんぱーい」
遠くから手を振る後輩に、「待たせちまったな、悪ぃ」と真咲は駆け寄る。
「大丈夫ですよ、そんなに待ってないですもん」
「そんなこと言って、冷えてるぞ?」
えへへと笑う後輩の頬を両手で挟むと、ひんやりと冷たくなっている。
後輩はというと、のんきに「あったかーい」なんて喜んでいた。
「手も冷たくなってる。手袋とかした方がいいぞ」
「んー。毎年ついつい買いそびれて冬が終わるんですよ。冷たいの、平気だし・・・」
「こら。今年は買っとけ。花やはなあ、手が荒れる職業なんだ。手袋して、クリーム塗って、大事にしなくちゃ」
「え、そうなんですか?じゃあ、今度買ってきます!」
「ん、いい返事だな。二重丸!」
言葉だけでなく頭も撫でて、褒めてやる。
気分はトップブリーダー。
頭を撫でられてる後輩は、まるで子犬のように純真な目で褒められるのが嬉しいと言うように見上げてくる。
「とりあえず今日は・・・仕方ない、俺のを貸してやろう」
「わーい!ありがとうございます!」
片方だけ手袋を脱いで、はめてやる。
片方だけ?と小首を傾げる後輩に、「こっちの手は、こう」と言って、手袋をしていない方の手を掴み、
自分の手と一緒にコートのポケットへと入れてやった。
「こうすると、あったかいだろ?」
我ながら恥ずかしいかなと思いながらもそう言うと、後輩はやっぱり嬉しそうに笑って、頷いた。