行かないで



あ、まただ。



先生は時々、遠い目をする。

いつもはぽやんとしていて憎めない人なのに、こんな時、とても遠くにいるように感じる。

まるで、自分とは全く違う世界で生きているかのように。

きっと、この人はいつか消えてしまう。

そんな思いが、胸の中で渦巻く。



「先生?」



不安になって呼びかけると、先生は一瞬、私の存在に今気がついたというようにはっとして、

それから元通りに微笑んだ。



「ん?どうかしましたか?」



大丈夫ですよと言いたげに微笑む先生に、余計に悲しくなる。

何を誤魔化そうとしているの?

何を隠しているの?

聞きたくなるけれど、言葉には出来ない。

だって、私は生徒で、彼は担任の先生。

それ以上の関係はないから。



「ボーっとしてると、こけちゃいますよ、先生?」



だから、私も誤魔化すようにそう言って。

先生は「本当だ。気をつけます」とわざとらしいほどの真面目さで返事をした。



お願い、先生。

黙ってどこかに行かないで。






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