独り占め
「両手に花だね」
そう言って微笑む彼女に、どきっとした。
確かに、桜と彼女という花との二つに僕は囲まれているわけで・・・。
いやいや、でもこの場合は喩えが違うじゃないか。
両手に花、とは二つの価値あるものを独り占めしたときに使う言葉なのだ。
だから、むしろ桜以上に可憐な彼女に思わず声が上擦りながら、間違いを訂正する。
桜は公共物だから、僕だけのものではない。
だけど・・・。
何時だって、僕の話を最後まで聞いてくれる彼女を見つめながら。
そう、この時だけは。
こうして2人で外出をしている時だけは、彼女を独り占めできているのだ。
だけど、彼女はきょとんとした顔で、「どっちの桜も公共物じゃないの?」とのたまった。
・・・そうきたか・・・!!
どうやら僕の勘違いだったようだ。
恥ずかしくなり、笑ってごまかす。
何だか体中の力が一気に抜けてしまった。
そんな僕を、彼女はよくわからないなあという顔をしながらも、微笑んでいる。
「とりあえず、あっちの方も見てみようよ?」
振り返る彼女に、「ああ」と頷き返す。
やっぱり、独り占めなんて、できてないな。
だけど、それでも。
その笑顔を見るたび、全てを僕のものにしてしまいたくなるんだ。
戻る