ココア
「お先に失礼します」
「お疲れ様。・・・あんまり、気に病んじゃ駄目よ」
「・・・はい」
あかりは力なく笑いながら頷き、アンネリーを出た。
誰だって、調子の悪いときというものがある。
あかりにとって、それは今日だった。
失敗続きの一日。
慰めの言葉も、素直に受け入れられない。
「あーあ・・・」
白い息と共に溜息が零れる。
夜風の寒さが、いつも以上に身に凍みた。
と、視線の先に、見覚えのある人物が立っていることに気づく。
「よぅ」
まるで死にそうな顔してるぞ、と声をかけてきたのは、同じくアンネリーで働いている真咲だった。
試験前とレポート地獄が待ってるとかで、あかりより一足先にあがったはずだった彼が、どうして?
「お疲れ様。これ、俺のおごり」
差し出された缶を無言で受け取る。
それは、温かいココアだった。
「誰にだって失敗はあるんだから、気にすんな。俺の失敗の経歴の方が何倍もすごいんだぜ。聞きたい?」
マジでやばいくらい叱られたなーあれは、と面白おかしく話し出す真咲。
その声に促されるように、あかりはココアの缶をあけた。
「美味しい・・・」
温かく、甘いココア。
何だか心まで暖かくなるような気がして。
涙が出そうになった。
真咲先輩はさりげなく優しいんだと思う!
この後ちゃんと車で送ってくれるんですよ。紳士。