「よう真咲!ハッピーバースデー!今日は酒でも飲みに行くか!それともデートの予定でも?」

「・・・バイトだよ」

講義後の教室で片手を挙げ意気揚々と尋ねる友人に、俺はさっさと帰り支度をしながらそう告げた。


1月24日。

俺の、10代最後のバースデー。





   たから






「真咲君、今手が話せないから接客お願い!」

「これくらいのブーケを3時までにあと3つね!」

「そこのカラー、向こうに移動してくれる?」




華やかな雰囲気とは裏腹に、花屋の仕事は体力勝負だ。

こういう日に限って店内は妙に慌しく、俺は休む暇もなく言われるまま働く。



今日は、俺の誕生日。



けれど、だからといって予定があるわけでもなく、当然のようにバイトに入って働いていた。

もしかしたら・・・と少し期待していたが、今日はいつも店内をちょこまかと動いている可愛い後輩の姿もない。

ちょっとがっかりしたが、今日は火曜日でも木曜日でもないのだから、当然と言えば当然だ。



・・・まあ、別に、会えたら何というわけでもないけど、な。



けれど最近妙に気になる彼女と一緒のシフトだったら、もっと華やいだ誕生日だったかもしれないと思ってしまう。

会って、話して、できればバイト後途中まで送って。

誕生日の日に一緒に過ごせたという、それだけで。

それだけで満足できるのに。






「真咲君、配達頼める?」

「いいッスよー。行ってきます」





店長の言葉に二つ返事をして、配達に出かける。

配達先はお得意さんのところで、俺はすでに慣れた道を往復してさっさと配達を済ませた。

早く戻って、仕事しないとな。

そう思いながら店内に戻ると、さっきまでとは一転して店内は落ち着いており、有沢と店長が談笑していた。





「あら。真咲君お帰りなさい」

異常なまでに笑顔な有沢が、そう声をかけてくる。

いったい俺のいない間に何があったんだ?

「お疲れ様。今日はもうあがっていいよ?波も通り過ぎたみたいだし」

「そうね、今日は誕生日みたいだし。せっかくの誕生日にバイトだけじゃね」

店長の言葉に、有沢もそう続けた。

「いや、俺別に予定とかないけど・・・」

いきなり何を言い出すんだと思いながらそう返した俺に、二人は満面の笑みを返す。

「・・・そうでもないみたいよ?」

「は?」

「とにかく、真咲君は今日はあがりね。お疲れ様!」



最後は捲し立てられるようにそう言われ、なかば押し込まれるようにして休憩室兼荷物置き場のある奥に押し込まれた。

何なんだ、と思いながら休憩室のドアを開ける。



「あ。真咲先輩、お疲れ様です」



休憩室にちょこんと。

会いたくて、でも今日はいるはずのない後輩が、座っていて。

「・・・え?あれ?」

俺は思わず、瞬きをくりかえしてしまった。



「お前・・・今日はシフト入ってないんじゃ・・・?」

「えへへ。そうなんですけど」

俺の問いに彼女は照れたように笑い、小包を差し出す。

「はい。真咲先輩、お誕生日おめでとうございます!」

零れんばかりの笑顔に、俺は言葉を失った。

ただ、彼女の顔を見つめるだけだ。

「今日、真咲先輩の誕生日だから、プレゼントを渡したくって・・・。配達中だからここで待ってなさいって有沢先輩が」

彼女の言葉に、ようやく先程の有沢たちの様子に合点がいった。

成程、そういうわけか。

だから、もうあがれってね?



「じゃあ、バイト、頑張ってくださいね」

「ちょっと待て」

小包を渡し立ち去ろうとする後輩に、俺はようやく現実に戻り、呼び止める。

「俺ももうあがりで帰るところだから。送ってく」

「えっ!いいんですか?」

「おお。上着取ってくるから、待ってろ」

「はーい!」





嬉しそうな彼女と二人、店を出る際に有沢の方をチラリと見る。

接客中だった有沢は、こちらを目だけで見、声にはしないまま(プレゼントよ)と口を動かした。

「・・・サンキュ」

「・・・?どうしたんですか、先輩?」

「いやいや、こっちのこと!」





1月24日。

俺の、10代最後のバースデー。




「意外とよかったな」

「はい?」




お前が居たからな。











HappyBirthday、真咲先輩!
19歳の誕生日ということで、まだまだ片思いな二人。
お粗末さまでした。
                        柚原ぴよ






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